GitHubの「SECURITY.md」は本当に効果があるのか?Pythonライブラリ679件の調査から見る実態とベストプラクティス
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昨今のオープンソースソフトウェア(OSS)開発において、セキュリティの重要性は論をまちません。GitHubなどのプラットフォームでは、開発者が脆弱性対応の方針を示すための「SECURITY.md」ファイルの設置が推奨されています。しかし、実際にこのファイルはどのように記述され、設置することで具体的にどのようなセキュリティ上のメリットがあるのでしょうか。
本記事では、Morakot Choetkiertikulらによる研究論文「Security by documentation? characterizing GitHub SECURITY.md policy and their adoption in Python libraries」(2026年)に基づき、Pythonライブラリにおけるセキュリティポリシーの実態とその効果について解説します。
調査対象と背景:セキュリティに関心の高いPythonプロジェクトを分析
本研究は、OSSエコシステムの中でも特に利用が拡大しているPythonパッケージ(PyPI)を対象に行われました。研究チームは、GitHub Advisory Databaseに脆弱性報告が存在する(=セキュリティに関与している)679のプロジェクトを抽出しました。
そのうち、セキュリティポリシー(SECURITY.mdなど)を設置しているプロジェクトは303件、設置していないプロジェクトは376件でした。本調査では、これらのプロジェクトに対して、ポリシーの内容分析、開発者の対応状況、そして客観的なセキュリティスコアの計測を行い、その相関関係を明らかにしています。
多くのプロジェクトが採用している「8つのポリシー要素」
GitHubはセキュリティポリシーのテンプレートを提供していますが、実際のプロジェクトでは、それ以上に多様な情報が記述されています。研究チームは772のコンテンツブロックを分析し、ポリシーの内容を以下の8つのカテゴリに分類しました。
図表1:PyPIリポジトリにおけるセキュリティポリシーのカテゴリと例
| カテゴリ | 定義 | 例 |
|---|---|---|
| 報告メカニズム | 脆弱性を開発者に報告する手順。 | 脆弱性を報告する場合は、GitHubやSlackで公開せず、まずはチームへ直接メールしてください: team@example.com |
| 一般的なポリシー | セキュリティポリシーの目的や基本方針。 | 本書はプロジェクトのモデルセキュリティとコードセキュリティについて記述しています。 |
| ユーザーガイドライン | 依存関係の安全な使用法や推奨設定など、ユーザー向けの指示。 | 本プロジェクトは公開サーバーへのデプロイを意図していません。Web UIはlocalhostのみに公開されます。 |
| 実践の範囲 | メンテナンス対象となっているプロジェクトのバージョンリスト。 | バージョン1.2.x - ✓ サポート対象 バージョン <1.1 - × 非サポート |
| プロジェクトの実践 | 脆弱性が報告された際に実行される具体的な手順。 | 各報告は5営業日以内に分析されます。修正が必要な場合を除き、情報は外部に公開されません。 |
| 脆弱性の履歴 | 開示された脆弱性のリスト。 | プロジェクトのリポジトリでセキュリティアドバイザリを管理しています。 |
| 追加情報 | セキュリティに直接関係しないその他の情報(貢献方法など)。 | すべての通信は英語で行われることを希望します。 |
| メンテナー情報 | メンテナーの名前、メール、役割など。 | フィードバックはいつでも歓迎します。 project@example.com までメールしてください。 |
さらに、これらのカテゴリがどの程度の割合で記述されているかを示したのが以下の図表です。
図表2:セキュリティポリシーに含まれるコンテンツカテゴリの分布

分析の結果、最も多く含まれていたのは「報告メカニズム」(87.78%)と「一般的なポリシー」(68%)でした。これらはGitHubのテンプレートに含まれる要素です。一方で、「ユーザーガイドライン」のようなテンプレートに含まれない独自の情報を追加しているプロジェクトも一定数存在することが明らかになりました。
脆弱性報告のリアル:94%がプライベート報告を推奨
セキュリティポリシーの核心は、発見された脆弱性をどのように報告してもらうかにあります。調査によると、セキュリティポリシーを持つプロジェクトの94.39%が、メールなどの「プライベートなチャンネル」を報告先として指定していました。
図表3:セキュリティポリシーで定義された報告メカニズム

報告手段の内訳としては、電子メール(Email)が40.92%と最も多く、次いで外部リンク(Webフォーム等)が21.78%、GitHubのAdvisory機能(Security Advisories)が12.87%でした。
一方で、セキュリティリスクが高いGitHubのIssue機能(誰もが閲覧可能なパブリックな場)を報告先として指定しているプロジェクトは、全体の0.99%とごく一部でした。これは、多くのメンテナーが、修正前の脆弱性情報が公になるリスクを正しく認識し、適切な報告ルートを選択していることを裏付けています。
しかし実際には、外部の貢献者がポリシーに従わず、Issue上で脆弱性を報告してしまうケース(ポリシー違反)も確認されています。メンテナーが適切なルートを用意していても、報告者への周知徹底には依然として課題が残っていることが浮き彫りになりました。
データで見る効果:ポリシー設置プロジェクトは「安全」か?
では、セキュリティポリシーを設置することは、プロジェクトの安全性向上に寄与するのでしょうか。研究では、OpenSSF(Open Source Security Foundation)Scorecardを使用して、ポリシーの有無によるセキュリティ対策状況のスコア比較を行いました。
図表4:セキュリティポリシーの有無によるOpenSSF Scorecardスコアの比較
| セキュリティ実践項目 | ポリシーあり平均 | ポリシーなし平均 | p値 |
|---|---|---|---|
| 総合スコア (Aggregate Score)* | 5.93 | 3.95 | <0.001 |
| バイナリアーティファクト (Binary Artifacts) | 9.50 | 9.64 | 0.05 |
| ブランチ保護 (Branch Protection)* | 3.53 | 1.69 | <0.001 |
| CIIベストプラクティス (CII Best Practices)* | 0.29 | 0.01 | <0.001 |
| 貢献者 (Contributors)* | 9.48 | 8.25 | <0.001 |
| 依存関係更新ツール (Dependency Update Tool)* | 7.02 | 3.19 | <0.001 |
| ファジング (Fuzzing)* | 1.75 | 0.61 | <0.001 |
| ライセンス (License) | 9.45 | 9.24 | 0.56 |
| メンテナンス状況 (Maintained)* | 7.49 | 4.04 | <0.001 |
| SAST(静的解析) (SAST)* | 3.57 | 1.06 | <0.001 |
| 脆弱性 (Vulnerabilities) | 7.45 | 7.43 | 0.93 |
*はポリシーありのプロジェクトが有意に高スコアであることを示す
結果は明白でした。セキュリティポリシーを持つプロジェクトは、総合スコアだけでなく、「ブランチ保護」、「依存関係更新ツールの利用」、「メンテナンス状況」、「静的解析ツールの導入」といった具体的なセキュリティ対策において、ポリシーを持たないプロジェクトよりも有意に高いスコアを記録しました。
これは、セキュリティポリシーを策定・維持するようなプロジェクトは、他のセキュリティ活動に対しても積極的で、高い意識を持っていることを示唆しています。
結論:今すぐ取り入れるべきアクション
本研究の結果、GitHubにおける「SECURITY.md」の設置は、単なるドキュメント作成以上の意味を持つことがわかりました。ポリシーを持つプロジェクトは、より堅牢なセキュリティ慣行を実施している傾向があります。
これからセキュリティポリシーを作成、あるいは見直しを行う開発者は、以下の点を考慮することが推奨されます。
- 明確な報告ルートの指定: 電子メールやGitHub Advisory機能など、プライベートな報告手段を明記し、修正前の脆弱性が公開されるリスクを減らしてください。
- サポート範囲の明示: メンテナンス対象のバージョンを明確にすることで、利用者が古いバージョンを使い続けるリスクを低減させ、メンテナーの負荷を管理してください。
- ユーザーガイドラインの追加: テンプレートに頼るだけでなく、プロジェクト特有の安全な設定方法や使用方法を「ユーザーガイドライン」として記述することで、利用者の誤用による事故を防ぐことができます。
セキュリティポリシーは、プロジェクトの信頼性を示す重要な指標です。まだ設置していない場合は、GitHubのテンプレートを参考にしつつ、自身のプロジェクトに合わせた内容で作成することをお勧めします。
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参考資料: