AIでプログラマーの雇用成長が3%低下?FRB論文から読み解く最新の労働市場
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生成AIの進化により、私たちの働き方は劇的な変化を遂げています。特にプログラミングの分野において、AIツールの活用はすでに日常的なものとなっており、「AIがソフトウェアエンジニアの仕事を奪うのではないか」という不安の声も少なくありません。
本記事では、米国連邦準備制度理事会(FRB)のLeland D. Crane氏らが発表した論文「AI and Coder Employment: Compiling the Evidence」(2026年)に基づき、ChatGPTの登場がプログラマーの雇用にどのような影響を与えたのかを、実際のデータから紐解きます。
生成AIの利用用途は「プログラミング」が突出している
AIが労働市場に与える影響を測る前提として、実際に人々がどのような目的でAIを利用しているのかを知る必要があります。Anthropic社が提供するデータセットを用いた分析によると、AIチャットボット(Claude)に対するクエリ(質問や指示)の多くが、特定の職業に偏っていることが判明しました。
以下の図表は、米国の労働人口に占める各職業の割合(青色)と、AIに入力されたクエリの割合(赤色)を比較したものです。
図表1:各職業におけるUS労働人口割合とClaudeクエリ割合の比較

「Computer and Mathematical」の職業は、全労働者のわずか3.4%にすぎません。しかし、AIに対するクエリの3分の1以上がこの分野に関連しており、そのほとんどがコンピュータプログラミングに関する内容でした。このデータは、ソフトウェア開発者などの「コーダー」が、現在最も生成AIにさらされている(影響を受けやすい)グループであることを明確に示しています。
ChatGPT登場後、プログラマーの雇用成長は鈍化したのか
それでは、実際にプログラマーの雇用にはどのような変化が起きているのでしょうか。研究では、米国の労働市場データ(O*NETおよびCPS)を紐づけ、コーダーの雇用数の推移を月次で追跡しています。
以下の図表は、全産業(左)、コーダー集約型産業(中央)、非コーダー集約型産業(右)における、コーダーの雇用推移を示したものです。縦の点線はChatGPTがリリースされた2022年11月を表しています。
図表2:コーダー雇用の推移

グラフを確認すると、ChatGPTのリリース以前は、コーダーの雇用は直線的かつ急速に成長していました。しかし、2022年11月を境にその成長軌道に変化が見られます。特に中央のグラフ「コーダー集約型産業」においては、2022年末以降、雇用の伸びがほぼ横ばいになっていることがわかります。
雇用鈍化の要因は「IT不況」か「AI」か
ここで一つの疑問が生じます。この雇用の成長鈍化は、AIの影響によるものなのでしょうか。それとも、2022年以降にテック業界全体を襲った景気後退や金利上昇による影響(産業レベルのショック)にすぎないのでしょうか。
この問題を解決するため、研究では「カウンターファクチュアル(反実仮想)」という手法を用いて分析を行っています。これは、「もし特定の職業(今回であればプログラマー)に対する独自のショックがなかった場合、産業全体の成長に合わせて雇用はどのように推移していたか」を予測する変数のことです。
図表3:実際の雇用推移とカウンターファクチュアル(予測値)の比較

赤い点線が産業全体の成長から予測されるコーダー雇用の推移(カウンターファクチュアル)であり、青い実線が実際の雇用推移です。左側および中央のグラフを見ると、コロナ禍以前は両者が密接に連動していましたが、ChatGPTリリース後(縦の点線以降)から明確な乖離が生じています。
これは、産業自体は成長(あるいは現状維持)しているにもかかわらず、コーダーの雇用だけがそれに追いついていないことを意味します。研究者らはこのデータから、業界全体の不況ではなく、AIの導入という「職業固有の要因」によって、コーダーの雇用成長率が年間約3%押し下げられていると結論付けています。
データが示すプログラマーの未来
分析の結果、生成AIはプログラマーの雇用成長に対して確実に抑制的な影響を与えていることが示されました。
しかし、注意すべき点があります。図表が示す通り、雇用の成長スピードは落ちていますが、雇用そのものが劇的に崩壊・減少しているわけではありません。コーダーの雇用は現在も(以前より緩やかではありますが)成長を続けています。
企業が採用を控えているのは、AIによってすでに劇的な生産性向上が実現したからなのか、あるいは近い将来のAIによる代替を見越して採用を一時停止しているだけなのか、現段階では結論を出すのが難しい部分もあります。AIの普及に伴い、コーダーにはより高度な設計能力やAIを使いこなすスキルが求められるなど、仕事の性質そのものが変化していく可能性が高いと言えます。
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参考資料: