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アジャイル開発におけるハイブリッドワークの設計と実践知

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開発生産性
アジャイル開発におけるハイブリッドワークの設計と実践知
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オフィス勤務とリモートワークを組み合わせるハイブリッドワークは、多くのソフトウェア開発組織で標準的な働き方として定着しつつあります。しかし、対面でのコミュニケーションや自律的な協調を重視してきたアジャイル開発において、どのような出社方針を定め、どのようにイベントや業務環境を適応させるべきかについては、多くのチームやマネージャーが模索を続けています。

本記事では、フィンランドのLUT大学などの研究チームが発表した報告書「Work From Anywhere, Collaborate Everywhere: Agile in the Era of Hybrid Work」を基に、アジャイル開発現場におけるハイブリッドワークの実態と影響を整理します。Ericsson Finland、Kempower、Solita、Housemarqueの4社を対象とした定性調査や、開発者・マネージャーを対象とする国際アンケートから得られた知見を紹介します。

4社への定性調査と国際アンケートによる調査の概要

本調査は、ハイブリッド環境におけるアジャイル開発プロセスの適応状況と、それが生産性、帰属意識、ウェルビーイング、イノベーションに与える影響の解明を目的として実施されました。

調査では、2023年11月から2025年6月にかけて複数回の半構造化インタビュー、ワークショップ、ならびに3回のアンケート調査が組み合わされました。対象となった組織の概要は表1のとおりです。

企業名設立年業界調査対象
Ericsson Finland R&D site1971セキュリティ、クラウド、5G/6G研究2ユニット(計15チーム)
Kempower2017EV充電ソリューションソフトウェア開発ユニット(5チーム)
Solita1996DX・技術コンサルティングマネージャー2名
Housemarque1995ゲーム開発スタジオ全社(開発者、アーティスト、マネージャー)

表1:調査対象企業の概要

定性データはMicrosoft Teamsで文字起こしされたのち、複数の研究者によってコーディング枠組みが作成・分析されました。また、国際アンケート(調査1:回答者65名、調査3:回答者197名)および社内アンケート(調査2:Ericsson 58名、Kempower 17名の計75名)を通じて、定量的な傾向や構造方程式モデリング(SEM)による要因分析も行われています。

9つの方針分類とチームごとの出社合意

研究では、組織が採用するハイブリッドワークの勤務方針を、柔軟性や出社義務の基準に応じて9つのカテゴリに分類・定義しています(表2)。

方針カテゴリ定義
Flexible従業員がオフィス勤務の頻度を自由に選択できる。
Semi-flexible頻度は概ね従業員が決められるが、一定の制約が適用される。
Fixed特定の指定された曜日にオフィスで勤務する必要がある。
Semi-fixed週1〜3日など一定割合の出社が求められるが、具体的な曜日は固定されない。
Team-drivenオフィスで勤務する頻度やタイミングをチームが決定する。
Remote-first大半または全従業員において、リモートワークが主たる選択肢となる。
Office-firstオフィスが主たる勤務場所だが、状況に応じてリモートワークも選択できる。
Event-driven月次や四半期ごとの集まりなど、定期的に予定されたイベントのために全員が対面で集まる。
Event-triggered定期的なスケジュールではなく、緊急対応などの特定の事象を契機に対面勤務が組まれる。

表2:ハイブリッドワーク方針の定義

これらの方針のうち、調査1の回答者65名における実態と希望を調べたところ、以下のような傾向が確認されました。

図1:現在の方針と希望する方針の比較 図1:現在の方針と希望する方針の比較

回答者の多くは柔軟性の高い「Fully flexible(完全柔軟)」を希望しており、出社日を固定する「Fully-fixed」や「Office-first」を希望する割合はごく少数にとどまりました。一方で、完全な「Remote-first(リモート原則)」を希望する人も限られており、対面でのチームワーク自体は肯定的に評価されています。特に子どものいる回答者は全員が完全柔軟な方針を希望し、オフィスファーストを選んだ人はいませんでした。

また、インタビュー対象企業でも製品の成熟度やチームの地理的配置によって適した方針が異なっていました。例えば、新製品開発でメンバーがオフィス近郊に住むEricssonのユニットE1では週2日固定の出社が円滑に機能していた一方、国内4都市に分散していたKempowerでは、6週間ごとのユニット全体イベントとチームごとの裁量に委ねる方針が採用されていました。

チーム単位の出社合意

個人の出社自由度を確保しつつも、チーム内で出社タイミングを合わせる「チームワーク合意」を望む声が多く見られました。

図2:チームワーク合意の現状と希望 図2:チームワーク合意の現状と希望

調査1では、個人が完全に自由に選ぶ状態よりも、定期的または不定期にチーム全員で集まる日を設定することを希望する回答が過半数を占めました。特に10名以上の大規模チームや、同じ都市に拠点があるチームでは、対面の連携を計画的に確保したい傾向が顕著でした。

アジャイル会議の形式とオンラインでの行動

研究では、アジャイル開発で実施される各種イベントや会議について、対面とオンラインのどちらが適しているかも調査されています。

図3:全員がオフィスに集まることで得られる利点の度合い 図3:全員がオフィスに集まることで得られる利点の度合い

調査1および2の集計によると、懇親などのソーシャルな集まりやブレインストーミングは「全員がオフィスに集まること」の利点が非常に大きいと評価されました。計画会議やふりかえり(レトロスペクティブ)も対面の有益性が比較的高く評価されています。一方で、デイリースタンドアップ(朝会)やスプリントレビュー、情報共有会議などは、オンラインでの実施で十分であると判断される傾向が見られました。

カメラ利用とマルチタスクの実態

オンライン会議中の行動について、カメラのオン・オフおよび並行作業(マルチタスク)の理由が分析されています。

カメラをオンにする主な理由は「発言者であること(113名)」「良好な関係性の維持(111名)」「参加姿勢を示すため(88名)」が上位でした。逆にオフにする理由は「単に聴いているだけ(104名)」「移動中(109名)」「飲食中(104名)」「帯域不足(98名)」などが挙げられています。

また、オンライン会議中のマルチタスクは一般的であり、メールの読み書き、議事録などのメモ作成、チャット、コーディングなど、業務に関連する作業が中心でした。家事や運動、育児などの私的な活動を並行して行う割合は低い水準にとどまっています。

帰属意識と生産性・ウェルビーイングへの影響

ハイブリッド環境における課題として、多くの参加者が「帰属意識の維持」を挙げました。

調査3の回答データ(197名)に基づくモデル分析(SOR理論を適用)では、相互支援、トレーニング、チームの結束力、知識共有、役割の明確さ、ワークライフバランス、非公式なコミュニケーションの7要素が、従業員の帰属意識に関連していることが示されました。さらに、この帰属意識の強さが組織コミットメントや職務満足感の向上と結びついていることが報告されています。

生産性とウェルビーイングの知見

生産性への影響については、インタビュー参加者の過半数(27名)がポジティブな影響を、9名が顕著な影響なしと回答し、ネガティブと答えたのは12名でした。自宅での深い集中作業と、オフィスでの協調作業を使い分けることや、通勤時間の削減が主な利点として挙げられています。一方で、非同期コミュニケーションによる確認の遅れや、オフィスでの雑音、自宅での孤独感などが阻害要因として指摘されています。

ウェルビーイングに関しては、柔軟な時間配分や通勤ストレスの軽減が肯定的に捉えられている一方、同僚との偶発的な会話が減少し、相手の体調や負荷状況を把握しにくくなる点が課題として共有されました。

ハイブリッドアジャイルを支えるハウスモデル

研究グループは、これらの調査結果を統合し、ハイブリッドアジャイル開発を成功させるための構造として「ハウスモデル」を提案しています。

図4:アジャイルソフトウェア開発におけるハイブリッドワークのハウスモデル 図4:アジャイルソフトウェア開発におけるハイブリッドワークのハウスモデル

このモデルでは、以下の階層構造が示されています。

  1. 土台(Foundation):組織の規模、製品フェーズ、チームの地理的配置などの「組織コンテキスト」と、自律性や生活環境などの「個人の選好」を考慮し、出社ガイドラインやチーム合意を形成する。
  2. 4つの柱(Pillars)
    • オフィスと在宅作業環境の整備(集中ブース、ハイブリッド会議室など)
    • アジャイルイベントとプラクティスの適応(会議の性質に応じた形式選択)
    • 社会的交流と知識共有の仕組み(ギルドやCoP、定期的な対面イベント)
    • コーチングと継続的な適応(アジャイルコーチによる支援と実験)
  3. 屋根(Outcomes):生産性の向上、帰属意識の強化、ウェルビーイングの改善、イノベーションの促進。

一律のルールを強制するのではなく、コンテキストに応じた調整と見直しを反復することが強調されています。

開発組織における検討の視点

本研究の結果は、ハイブリッド開発環境の改善を進める開発チームやマネージャーにとって有益な視点を提供しています。

  • 会議の目的に応じた実施形式の使い分け:ブレインストーミングや設計の初期議論、スプリント計画などは対面を優先し、定例の進捗確認や情報共有はオンラインで行うことで、出社日の価値を高める検討ができます。
  • チーム単位での出社日の合意形成:個人任せの出社では「出社してもチームメンバーが誰もいない」という状況が発生しやすくなります。チーム内で固定日や不定期の集中日を話し合って決めることが有効です。
  • 業務スペースと座席運用の適合:全員が一斉に出社する運用では固定席やチームエリアが好まれ、出社頻度がまばらで拠点分散が進んでいる組織ではフリーアドレス(ホッティング)が適しやすいというトレードオフが確認されています。
  • カメラやマルチタスクへの共通認識:重要な意思決定や対話が必要な場ではカメラオンを推奨し、講義形式や大規模な共有会ではオフや並行作業を許容するなど、会議種別ごとにグラウンドルールを整理することが疲労軽減につながります。

まとめ

本報告書は、アジャイル開発におけるハイブリッドワークが単なる勤務場所の選択ではなく、チームのコミュニケーション、イベント設計、物理的・仮想的な環境整備が複雑に絡み合うシステムであることを示しています。

調査では、完全な出社強制や過度なリモート原則のどちらか一方に偏るのではなく、業務のフェーズやチームの特性に応じた柔軟な制度設計と、チーム内での自律的な合意形成が有効に機能している様子が明らかになりました。自チームのコラボレーションと個人の集中作業のバランスを見直す際に、本研究のモデルや分類を議論の出発点として活用してみてはいかがでしょうか。


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参考資料:

執筆・編集: vonxai編集部

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